GLORY DAYS 〔from 逆転裁判〕


 きみのためにできることをかんがえている












「……やあ、御剣」


「驚いたな」
「邪魔なようなら、帰るが」
「そんなこと思ってたら中に入れてないよ」
「む。……相変わらず客もいないようだが」
「相変わらずってなんだよ。初めて来たくせに」


「ま、たとえお客さんがいても、君なら追い返したりしないさ」
「……む」


「コーヒーでいいかい? インスタントだけど」
「ああ、有り難う。
 ……あの子は?」
「ああ、真宵ちゃん? ……家に帰ったよ、修行し直すって」
「む」
「あのあとすぐだな。……もっとおまえの力になりたかった、って」
「……彼女には、感謝しているぞ」
「うん、ぼくもそう言ったんだけどね。彼女なりに思うところがあったみたいだ。
 ……また帰ってくるよ。ぼくの大事な助手だ」
「……直に礼を言いたかったのだが……」
「あ、そうだ。保釈金、ありがとう。ちゃんと話しておいたから。真宵ちゃん、半泣きで感謝してたよ」
「む」
「ぼくだったら用意できたかどうかわからないしね。怖いから値段は聞かないけど……」
「問題ない。全額返還は受けた」
「えっ、保釈金って返してもらえるんだ?」
「おとなしく審理を受ければ返還される。君はそんなことも知らないのか?」
「う、いや、まあ……そういうシチュエーションって無いからな、普通」
「知識の一環だと思うが」
「うう」
「そんなだからシロート弁護士だと言うのだよ」
「ううう。
 ……まったく、珍しい客が来るかと思えばこれだ。はい、熱いよ」
「うむ」
「……御剣、お寺の匂いがする」
「お寺?
 ……む、線香のことか」
「ああ、そうそう。お線香」
「……父の、墓前に行ってきた」
「……ああ……」
「その帰りだからな。……しかし、お線香イコールお寺という君の発想は」
「うう、スミマセン」
「まったく、不思議な男だな、君は。
 人並みの知識もないかと思えば、恐ろしいほどの大逆転もしでかすのだから」
「褒められてるのかけなされているのか、よくわからないな、それ……」


「お父さんには、報告したのか。事件のこと」
「……うむ」
「その後、どうだ。まだ夢は見るのかい」
「……たまに、な」
「そうか……」
「十五年も続いていたのだ。昨日の今日でぱったり見なくなるわけでもなかろう」
「でも、たまに、なら、見ない日もあるってことか?」
「そうだ。
 あの、判決の日……あの晩、初めて熟睡したよ」
「留置所だぞ?」
「無罪は決まっていたからな。出られると思えばどうということはない。
 三食付きで暖房も効いているし、そこそこに快適ではあるのだぞ」
「だからって入りたいとも思わないよ!」
「感謝、しているぞ」
「うん?」
「君に」
「うんん?」
「真宵君にも、糸鋸刑事にも」
「うんんん?」
「一番は、君だが」
「うんんんん?」
「……ちゃんと喋れ」
「おまえこそ、もっとつなげて喋れよ」
「君に感謝していると言ったのだ」
「ああ、そう。……て、いや、そうなのか?」
「二度言ったぞ」
「あのね。『ありがとう』というのは、そんなしかめっ面で言うものじゃないのだよ、御剣検事」
「む」
「それに、礼を言われるほどのことじゃない。学級裁判の時の借りがある。それを返しただけさ」
「その件だが……私はよく憶えていないのだが?」
「ぼくが憶えていればいいんだよ。あれがある限り、ぼくは何があってもおまえを信じて、護る」
「……そういうものか」
「そういうことさ」
「……だから君は呆れるほどのお人好しというのだ」
「褒められてるのかけなされてるのか、わかりにくいな、それ……」


「……なんの音だ?」
「あ、ほら。隣のホテル。支配人が替わって……」


「……御剣!」


「……む、……」
「大丈夫か?」
「……すまない」
「隣のホテル。改装中なんだ。だから時々地鳴りがするんだけど……地震じゃないんだよ。
 すまない。もっと早くに言うべきだった」
「……問題ない」
「真っ白い顔してよく言うよ。……ほんとに、悪かった」
「君が謝ることではない」
「そうかも知れないけど……でも、ゴメン」


「……なんの真似だ」
「改めて訊かれると答えにくいな」
「無理してでも答えろ」
「ぼくがおまえを抱いてやってる、だな、平たく言えば」
「本気で答えるやつがあるか!」
「なんだよ、自分でふっといて」
「なんの真似だと訊いている」
「そうだな……なんて言うか、放っておけなくて」
「それとこれとどういう関係があるのだ?」
「だからなんて言うか。真っ白になってぶるぶる震えてるおまえみたら、何とかしてやりたいと思うじゃないか」
「余計なお世話だ」
「……まだダメなんだな、地震」
「……そのようだ」
「無理もないのかな。……でも、なんだか切ないな」
「……どうでもいいから、離せ」
「まだ震えてるぞ、御剣検事」
「訴えるぞ、このシロウト弁護士が」


「……そんなに力一杯殴るやつがあるか!」


「すまない、カップを落としてしまった」
「いいよ、中も大して入ってなかったようだし」
「手慣れたものだな」
「そう? これで結構料理もできるんだよ。おまえは外食ばかりか?」
「だいたいそうだ」
「栄養偏るぞ。……まあホントは、それだけの余裕がぼくにないだけなんだけど」
「今度の事件で少しは名も知れただろう」
「うーん……事件は有名になったけど、成歩堂法律事務所のの名前はなぜか知られないんだよなぁ……。
 千尋さんの事件の時もそうだったんだ。だからあんまり期待してない」
「綾里弁護士か。……ここは、もともと彼女の事務所だったのだろう?」
「うん。そのまま引き継いだんだ。
 いっそここに住んでしまおうかと時々考えるな」
「事務所用の部屋だぞ」
「うん、でもほら、水道とか一応揃ってるだろ? 風呂がないのがネックで、思い切れないんだけど……日中はほとんどここにいるし、弁護士なんて年中無休みたいなもんだろ。帰って寝るだけになってるアパートの家賃が不経済だなー、って」
「……キサマの経済状況は糸鋸刑事並みだな」
「減らしてるの、誰だよ」
「弁護料なら支払う」
「違う違う、イトノコさんの給料の方。それに、おまえから弁護料もらおうなんて考えてないし。無理矢理依頼させたようなものだからな」
「無理矢理ではない。私は君を……頼ったのだ」
「うん、でも、いいよ。今の言葉で充分だ」
「こういうことはきちんとしておきたい。金の切れ目がなんとかとも言うからな。
 金額が決まり次第、私の事務所に請求書を回してくれ。今聞いておいてもいいが」
「う……うん、それじゃあ、あとで請求しておくよ。
 しかしアレだな、千尋さんの事件の時のおまえと来たら、心底あくどかったな」
「む」
「早いな。……まだ四ヶ月だ」
「……うむ」
「今もあくどいことはあくどいな……まあ、お手柔らかに頼むよ」
「その前にキサマはもっと勉強しろ」
「うう……耳が痛いなあ」


「長居をしてすまないな」
「いいよ。見てのとおり、暇だから。
 また来いよ。……その頃にはホントにここに引っ越してるかも知れないけど」
「そうならないことを祈る」
「そうだ。弁護料、ここの家賃一年分ってのはどう?」
「構わない。請求書と振込先を教えてくれ」
「毎月分割で。それで、毎回おまえがここに届けること、ってのは?」
「……なんだと」
「そうすればいやでもぼくに会わざるをえないからな。そうしたら、たまにはラーメンでも食べに行こう」
「……馬鹿か、キサマは」
「ぼくにしてはわりにいい考えだと思うけど」


「そんな力一杯蹴飛ばすやつがあるか!」


「……だからキサマは、腹が立つほどのお人好しだというのだ!」












 そして、御剣怜侍は、ぼくの前から、いなくなった。











GLORY DAYS / D-LOOP

 [あとがき」

 2004年10月から、がつんと踊らされました。
 アドバンス版のなので、「よみがえる逆転」のシナリオはまだ知らない時点で書きました。
  平たい話が、例によって例の如く、な感じで、御剣検事が大好きで。やばいくらい好きで。ナルホド君も好きで。ていうか1のプレイ中、「これってふたりの愛のメモリー?」って思ったくらいだったんで。1の第4シナリオで泣きましたもの。学級裁判のとこで。てか、あの辺の台詞すべてで泣きました。だもんで、1から3まで立て続けにこなしまて、2の冒頭で「死んだ」とか言うのを見て、目の前真っ暗になりました。いや良かったよ生きてて! 信じてたけど!!
  そんなわけで、ぽつっと。こんなこともあったんじゃないかなくらいの気持ちで。今更同ネタ多数なのかも知れないですが、自分が全然見てないから良しとしましょう(してください/切実) 行間はお好きにアレンジしてください。
  ナルホド君と御剣検事の組み合わせはもちろん大好きなのですが、イトノコ刑事と御剣検事の組み合わせも大好きなのです、ワタクシ。なので、やっぱり1の第4シナリオって、バイブルです。2の第3シナリオでいつの間にか連絡取り合ってるあたりもかなりトキメキ覚えましたが。それ言ったら3の5は鼻血吹くぐらいトキメキですか。いや単にイトノコ好きか。ナルホド君と真宵ちゃんのやりとりも好きだし、ナルホド君とあやめちゃんの微妙な感じも微笑ましいし、狩魔冥ちゃん大好きだし、もう好きだらけでやばいです、これ。

 「よみがえる逆転」の時は、もう御剣の失踪を知ってるわけなので、スタッフロール時の「空白の席」が悲しかったです。
 オドロキ君になったらもう出ないのかな……

  

ウエニモドル